Google, Yahoo, Microsoft の簡単な財務比較

「技術経営」のクラスの最終レポートがやっと終わる。テーマは、Googleの競争優位について、MOTの観点から。気付いたら2万字以上書いてたよ。
戦略論になるとどうも定性的な分析ばかりになるので、財務データの分析もしてみた。Googleの収益性や成長性、コストを、(一応)競合と言われているYahoo、Microsoftとの比較を含め分析。Googleの強さが財務数値からも現れているはず(?)という当初の狙いがあったが、結構顕著に出てたと思う。いろんなところで散々Google論はされてるので、こういうのって誰かがまとめてネット上に公開してるかなぁと思ったが、ググっても出てこないので、折角だしブログで公開してみることにした。
以下は、各社のForm 10-K(アニュアル・レポート)から抜粋した主な収益データ。Googleは2004〜2006年の3年間、Yahoo及びMicrosoftは2005年、2006年を対象としている。かなり乱暴なやり方だけど、一覧性を高めるために数値は円換算(1$=120円)としてみた。(因みに、GとYの会計年度は12月に終わり、Mは6月が期末。)
注意: 画像(画質悪くてすまへん)の横幅が広めなので、ブ ラウザの横幅も最大にしてご覧下さいまし。

Google、Yahoo、Microsoftの財務データ概要

全て1$=120円として換算

以下、財務分析素人による所感:

  • まず、目に付くのは、Googleの売上の伸び。前年度比で05年は92%、06年72%の伸びを見せている。
  • Googleは毎年売上原価率(対売上比、以下同じ)を下げている。売上原価に占めるのは、ほとんどがデータセンターの運用費であるはずだが、これは「コモディティ化したハードウェアの個別の信頼性はある程度無視し、インテリジェントなソフトウェア(GFS)で数十万台のサーバを自動管理している」という低コスト・インフラによる"規模の経済"のメリットが徐々に現れているんじゃないかと思われる。一方、Yahoo、Microsoftは売上原価率を上げている。Microsoftの原価率が他社と比べて異常に低いのは、ソフトウェアのライセンス販売というビジネスモデルの違いに因る。(一度開発したソフトウェアを大して改善せずに、CDやDVDに焼いて出荷するだけというモデルなんで、自ずと原価は安くなる。)
  • Googleの販売費率が他社と比較して異常に低いのは注目に値する。Googleは顧客を獲得するのに、ほとんどマーケティングや営業を使わないで、口コミやパブリシティを利用しているというのは有名だけど、そのビジネスモデルが顕著に現れていると言える。(他社と違って、テクノロジーでできることは人を介せずやってしまおうというスタンス。)
  • 売上と同じく、営業利益、当期純利益も大きな伸びを見せている。(他社の利益は前年度比減。ところで、2005年のYahooの純利益が膨れてるのはなんでだろ?前年のAnnual Report見てないのでわからん。多分Yahoo Japanの株式売却益とかそんな感じかな。)
  • 営業利益率、ROE、EPSなども大きな伸びを見せているのは明らか、それに比較してYahooの不振ぶりが目に付く。Microsoftは全体的には横ばい傾向にある。
  • 時価総額は以下の過去2年間の推移と併せて見れば分かるが、Googleは右上がりで20兆円を超えた。一方Microsoftは若干増やしているが、ほぼ横ばいであり、Yahooは右下がりの傾向にある。(因みに、現在日本企業でGoogle以上の時価総額なのは、24.1兆円のトヨタだけ。)

  • Googleの従業員数は公表されていないが、約12,000との最近の記載があった。通常の採用に加え買収も盛んに実施しているため、ここ一年半程度で倍の数となっている(信頼性のあるソースがないので、あくまでも推測ね)。

なお、Annual Reportによると、Googleの06年の売上の内訳は以下の通り。売上の99%以上が広告収入であることが伺える。

一方、表の数値だけを見れば、Microsoftは劇的な伸びは見込めないものの依然PCソフトウェアという成熟市場を独占することで、非常に高い収益を上げている。では、なぜMicrosoftGoogleを恐れるのか? その秘密はMicrosoftの売上内訳を裏付けとして考えると説得力がある。(こっちは面倒くさいのでドルベースのまま。)

Microsoftの2006年度期の各事業の内訳

Microsoft 2006年度Form 10-Kより(単位: Million $)

  • Client(Windows OS)及びInformation Worker(MS Office)の2大事業が売上及び利益を牽引しており、その粗利は7割を超える。また、それに続くのが、Windows ServerやSQL Server、Exchangeなどの企業向けのサーバOS、ミドルウェア(Server and Tools)事業。(異常に高い粗利率。。。暇があれば、シマンテックなどのソフトウェア企業と比べてみたいと思う。エンタープライズを相手にしているSAPやOracleではこうは行かないだろう。)
  • これらの事業への依存度がかなり高く、新規事業として長年取り組んでいるビジネスアプリケーション、モバイル、Xbox、MSNなどの事業は、利益の面ではそれに続く事業として成長しきれてない。
  • 特に、Googleの対抗馬として力を入れているMSN事業の売上は 2,298 Million$とGoogleの1/5程度であり、しかも赤字。
  • キャッシュ・カウとなっているOSやOfficeなどの事業に対して、GoogleスタンドアローンのPCからWebへシフトさせるサービスを次々に打ち出している(いわゆる「こちら側」から「あちら側」へのパラダイムシフト)。GmailGoogle Docs & Spreadsheetsなどのサービスが普及するにつれて、ユーザはブラウザとネットワークさえあれば事足りてしまう。強いては、OSもWindowsではなくても構わないいう時代がすぐにくるかも。(最近では、PowerPointの対抗とも言えるプレゼンテーションソフトの会社も買収。)
  • 現状、Googleのサービス提供相手(ユーザ)は一般コンシューマーであるが、CEOのエリック・シュミットは企業向けのサービス提供にもフォーカスしていくと宣言している。

以上、Googleは高成長・高収益の現在の事業を軸として、さらにWebサービスへ全てがシフトしていく戦略をコンシューマーだけでなくエンタープライズにおいても推し進めようとしている。OSとOfficeへの依存度が極端に高く、新たな事業を確立することでリスク分散された事業ポートフォリオを構築できていないMicrosoftにとっては、自社のキャッシュ・カウをじわじわと骨抜きにしようというGoogleの戦略は脅威に映るはず。また、優秀な社員がGoogleに次から次へと移っていく状況も、Microsoftの危機感を煽っている。
以上、本編のテーマはMOTなので概観を掴むための簡単な分析。書いてることは既にいろんな人が言ってることと同じなので新鮮さはないけど、数字からもそれが読み取れるのはなかなか面白い。なお、このブログの読み手にはこういう分析のプロが結構いるはずなので、突っ込みお待ちしてます。あと、このレポートの全文を見たいという物好きな方がいらっしゃいましたら、コメントもしくはメールしてくれればお送りします。
以下、参考資料。


僕がこんなふうにさくっとレポートを書けるのも、Google Searchや、Microsoft Word & ExcelYahoo! Financeなどのお陰なので、個人的には、3社とも仲良く永続して今後も人間の生産性を極限まで上げてくれるようなサービスや製品を提供していって欲しいところ。(Microsoftは何が何でもキライだ!なんて子供みたいなこと、もう言いません。)


ところで祇園祭っていつまでやってるんだろうか。部屋で一人鼻水垂らしながら、MOTとか言ってる場合じゃない。見に行かねば。