CSRとISR

CSRって言葉があります。これ、Corporate Social Responsibility (企業の社会的責任) の略になります。昨今の企業の度重なる不祥事によって、内部統制やJ-SOXといった言葉が様々なメディアで取り出されています。CSRとはその先にある、企業の社会的貢献、つまり企業価値や利益を社会のために “還元” するという考え方になります。サンに在職中、コンプライアンス関連のソリューション提案をする中で、いろいろな人に言われたご意見、「内部統制にしても CSRにして、なんら自社にとっての収益を生み出さないじゃん。」本当にそうなのでしょうか。ちょっと視野を広くすれば、それらが企業活動の透明性、正確性につながり、強いては社会的な信頼力と競争力の向上となり、結果長期的な企業にとっての大きな利益を有形、無形に関わらず生み出すことになるはずなのです。

経済同友会が一昨年リリースした「市場の進化」と社会的責任経営という白書に記述されているCSRの本質の一つとして以下のようなものがあります。

CSRは企業と社会の持続的な相乗発展に資する
CSRは、社会の持続可能な発展とともに、企業の持続的な価値創造や競争力向上にも結び付く。その意味で、企業活動の経済的側面と社会・人間的側面は「主」と「従」の関係ではなく、両社は一体のものとして考えられている。「市場の進化」と社会的責任 表紙・まえがき・目次・要約 (エグゼクティブ・サマリー) - Page 15

ちょっと何かに似てると思いませんか?

そう、今のオープンソースやいわゆる2.0的な動きにすごく似ているのです。上記の引用の「企業」を「個人」、「社会」を「ネット上のコミュニティ」に変換して考えてみてください。なぜ、ディベロッパーはなんら個人の収入に貢献しないオープン・ソース・コミュニティに労働力を提供するのでしょう? なぜ、企業人は、なんら自身の収入に貢献しないのに、ノウハウやアイデアをブログで公開するのでしょうか? 始めは、自分のやっていることを誰かとシェアしたい、認められたい、有名になりたいというようなスタートだったに違いません (そんな私も一年半前は、単に自社製品の宣伝のためにブログを始めました)。しかしその後、書いていくにつれて、アクセスしてくれる人が増えるにつれて、その先に何かぼんやりとした責任感を強く感じ、それ以降は書き続けなければいけないという、変な使命感を持つことになるわけです。

個人的には、Web 2.0を突き動かす何かって、ISRつまり、Individual Social Responsibility (個人の社会的責任) によるものなのではないのだろうか、と思います。コミュニティに参加して、なんらかしらの寄与や貢献が始まった時点で、その人は大きく成長するはずです。「自分の心や脳に閉じ込めていた能力やアイデアがネットを通じて、これだけの人たちをハッピーにできるんだ、もうこれは止められない、もっとそれらを公開し世の中に還元したい」と。ちょっと選民思想的かもしれませんが、でもそういう人たちはとても謙虚にそう思っているはずです。

コンプライアンスの先にある企業が目指すものがCSRであれば、Web 2.0の先にある (であろう) 個人がめざす (であろう) ものはISR。前者はエンタープライズ・サイドを起点とするトップダウンな動きですが、後者は、個人や有機的コミュニティから生まれてくる、ボトムアップ的なイニシアティブになります。どうもなんか共通点があるような気がしており、面白いです(ま、あくまでも私の思い付き的な仮説ですが)。

これら二つの動きがどう今後融合していくのか、いや、しないのか、これは私の最近のテーマの一つです。